リンガ・フランカ

レジデンス成果発表展
本郷

リンガ・フランカ

トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2025 成果発表展

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世界の街を舞台に滞在制作を行ったアーティストたちによる成果発表展

トーキョーアーツアンドスペースでは、2006年よりレジデンス・プログラム「クリエーター・イン・レジデンス」を開始し、東京や海外の派遣先を舞台に、さまざまな分野で活動するアーティストたちへ滞在制作の機会を提供しています。
本展では2期にわたって、東京や世界各国のレジデンスに滞在した総勢14名の国内外のアーティストたちがその成果を発表します。第1期では「分断を越えて」というテーマを共有してTOKASレジデンシ―で滞在制作を行ったアーティストを含む7名が、第2期では2024年度に提携機関に派遣、あるいはTOKASへ招聘された作家たちが、同じ空間を共有し行うグループ展です。

人類は、地球上の異なる地域で、それぞれの自然と共存・適応しながら、社会生活を営み、固有の文化や習慣、言語を発達させてきました。そして、気候の変化や資源の確保といったさまざまな理由により、集団は別の土地へ移動し、そこで自分たちとは異なる背景をもつ別の社会集団と出会います。その中で、互いの集団が用いることば同士が接触し、互いに影響しあい、単純な意思疎通を可能にする言語が生まれました。さらにそれが土地への定着や融合を繰り返すことで、新たな共通言語リンガ・フランカとして発展します。

本展に参加する14名のアーティストたちも、各地のレジデンス滞在中に、異なる文化的背景をもつ人々と交流を深め、彼らが抱く問題意識や興味を追いながらリサーチを進め、その経験を凝縮させてきました。そして、それらは作品のかたちとなって空間に立ち現れ、他者に何かを伝える媒体となります。示唆に富んだ彼らの視線や現実への挑み方は、同時代を生きる私たち観るものが蓄積してきた知識や想像力と有機的に繋ぎ合わさり、さまざまな反応や解釈に辿り着いていきます。
異なる母語話者同士が、どうにか意思疎通を図るために生まれ、発展したリンガ・フランカのように、本展を通じてまだ知らなかった世界、自分では意識してこなかった事柄に触れることで、自分を取り巻く背景や因習、固定観念などから解放され、互いを理解するための新しいことばを得られるのかもしれません。 

開催概要

タイトルトーキョーアーツアンドスペースレジデンス2025 成果発表展 「リンガ・フランカ」
会 期第1期:2025年5月17日(土) - 2025年6月22日(日)
第2期:2025年7月5日(土) - 2025年8月10日(日)
時 間11:00-19:00(入場は閉館30分前まで)
休館日月曜日(7月21日は開館)、7月22日
会 場
トーキョーアーツアンドスペース本郷
入場料無料
アーティスト第1期:ボリャナ・ヴェンチスラヴォヴァ、木村桃子、カルメン・パパリア、久松知子、森あらた、山田 悠、リスキー・ラズアルディ
第2期:AKONITO、綾野文麿、金 サジ、小宮知久、陳哲(チェン・ズ)、露木春那、クリストファー=ジョシュア・ベントン
主 催トーキョーアーツアンドスペース(公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 )
提携機関ウィールズ/ベルギー・フランダース政府(ベルギー、ブリュッセル)、HIAP[ヘルシンキ・インターナショナル・アーティスト・プログラム]/フィンランド文化財団(フィンランド、ヘルシンキ)、18th Street Arts Center(アメリカ、ロサンゼルス)、センター・クラーク/ケベック・アーツカウンシル(カナダ、ケベック州[モントリオール])、SeMAナンジ・レジデンシー(韓国、ソウル)、トレジャーヒル・アーティスト・ヴィレッジ/アーティスト・イン・レジデンス台北(台湾、台北)

第1期:2025年5月17日 (土) - 6月22日 (日)

テーマ・プロジェクト「分断を超えて | Beyond Divisions」

TOKASレジデンシーに同時期に滞在した4名のアーティストが、「分断を超えて(Beyond Divisions)」を共通のテーマとして、議論や意見交換をしながら制作を行いました。

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《7 Butterflies and We Will Dance. And It Will Be Our Revolution.》
2024~
映像

ボリャナ・ヴェンスラヴォヴァ | Borjana VENTZISLAVOVA

海外クリエーター招聘プログラム 
滞在期間:2024.5–7
滞在場所:TOKASレジデンシー

社会地理的、文化的、心理的な境界の移動と越境のプロセス、そしてコミュニケーションと翻訳の複雑さにどう対処するかに関心をもつヴェンチスラヴォヴァは、作品制作を通じて、ドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にし、わたしたちの現状に疑問を投げかけます。滞在中は、日本の迷信文化を起点に家父長制とジェンダー不平等、さらに日本の伝統的な儀式の実践に焦点を当て、スピリチュアリティと政治的実践の交差を取り上げる作品を制作しました。

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《Mobility Device》2015~
パフォーマンス

カルメン・パパリア | Carmen PAPALIA

海外クリエーター招聘プログラム 
滞在期間:2024.5–7
滞在場所:TOKASレジデンシー

パパリアは非視覚的な社会的実践に取り組むアーティストで、アクセシビリティを創造的実践の場としています。彼の作品は協働パフォーマンスから公共介入に渡りさまざまな形をとり、実践をとおして、主流文化に広まっている障害に対する根深い思い込みを覆すことを目指しています。滞在中には、カナダのノイズ・アーティストSam McKinley氏と協働し《Loud Cane 1.0》を開発、物の表面の質感を音に変換し奏でるパフォーマンス用のサウンド・ケーン(楽器となる白杖)を制作しました。

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《ダンシングサラリーマン》2024~

久松知子 | HISAMATSU Tomoko

国内クリエーター制作交流プログラム 
滞在期間:2024.5–7
滞在場所:TOKASレジデンシー

さまざまな土地を移動しながら、アートの権力、制度、経済そして歴史を関心の対象とし、その地域的な差異あるいは共通言語の存在を探るべく、具象絵画とドローイングを中心に制作しています。滞在制作中には戦後日本の表象を捉えるべくリサーチを行い、その中で鑑賞した一本の映画にインスピレーションを受けました。作中で描かれている高度経済成長期の日本の明るく勢いのある様と、現在我々を取り巻く社会的に陰鬱なムードのギャップを、「サラリーマン」という表象を通じ、久松の持ち味でもある物語絵画として、可愛らしくもアイロニカルに表現します。

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《無題》2024
映像

森あらた | MORI Arata

国内クリエーター制作交流プログラム 
滞在期間:2024.5–7
滞在場所:TOKASレジデンシー

身体と映像の融合、現実と虚構の境界線といった、アンビバレントな表象をテーマに映像を制作する森は、自身と同じロストジェネレーション世代のもうひとりの「私」を探す物語を下地とする映像制作に着手。引きこもり経験者や心の悩みを抱える人など多数の人にインタビューを行いました。本展では、「私」と同世代の「他者」との対話・対峙を展示空間で再現、伝わらなさ、孤独、分断といった普遍的なテーマを、半透明な心象風景として提示します。


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《Glowing stump》2024
木、光ファイバー、映像
Photo: Alexis Bernard

木村桃子 | KIMURA Momoko

二都市間交流事業プログラム<ケベック> 
滞在期間:2024.4–6
滞在場所:センター・クラーク

木村は物質の厚みと時間の奥行きをテーマに、木材とその年輪を用いて光や時間など目に見えないものを可視化することを試みています。2023年にカナダのケベック州で発生した大規模な森林火災に強く関心をもちながらレジデンスを訪れ、森林火災が単なる災害ではなく、生命の循環に必要な自然のプロセスであることを深く理解するに至りました。レジデンス滞在直前に起きたアイスストームによる甚大な被害を目の当たりにした彼女は、その際に倒木した木材を収集し、自然災害と循環に焦点を当てた作品を制作します。

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《Sun of the City (Tartu)》2019
Photo by Roser Cussó

山田 悠 | YAMADA Haruka

二都市間交流事業プログラム<ロサンゼルス> 
滞在期間:2024.4–6
滞在場所:18th Street Arts Center

変動する都市環境の中で、自らの行為をどのように作品として成立させることが出来るかに関心を持つ山田は、都市/自然/人間という要素を相対的に捉え、ものごとの関係を測り直そうとしています。彼女の制作活動の多くは実際の都市空間の中で行われ、外的要因からの影響を作品に引き受けさせようと試みます。レジデンス滞在中には、私たちが無意識に正しいと認識している「時間」や「時刻のルール」、そこに内在される権力について考察を続け、その成果として壁面作品や再構成したインスタレーション作品を展開します。

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《Not Masterless Object》2024
CGIとHDビデオ/マルチチャンネルビデオと空間インスタレーション

リスキー・ラズアルディ | Rizki LAZUARDI

海外クリエーター招聘プログラム
滞在期間:2024.9–11
滞在場所:TOKASレジデンシー

ラズアルディは作品制作において、オーディオ・ヴィジュアル映像に内蔵される制度的な効果を活用しています。今回のレジデンス滞在中には、茨城県にかつて存在した放射線育種場「ガンマーフィールド」を思考の出発点とし、農業や原子力の専門家・研究者たちへのインタビューを通じて、フルーツの品種改良について調査を行いました。流通の背景にある意外な事実や信じられてきたフィクションを一種の物語として抽出しながら、本展では高級フルーツの競売に光を当て、改良された果物がもつ社会経済的影響を表現することを試みます。

第2期:2025年7月5日 (土) - 8月10日 (日)

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《The name of the flower you didn't remember after all.》2024
紙にプリント

AKONITO

二国間交流事業プログラム<ブリュッセル>
滞在期間:2024.1-4/9-12
滞在場所:ウィールズ

AKONITOは、時間や霊といった、広く共有された概念を分解、組み換え、再構成することで、人類のもつ深層の共通性を見出し、作品化を試みています。女性たちのみで集団生活を行っていた歴史的建物群「ベギンホフ」について調査を行い、伝統的なカトリックとも異なり彼女たち自身の信仰を大切していた「ベギン」たちの、創造的かつ匿名性の高い手仕事や、時に魔女として迫害を受けた歴史を辿りました。そこから見える現代のフェミニズム運動との共通点や、作家自身とのオーバーラップに光を当てます。

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WIELSでのオープンスタジオの様子

綾野文麿 | AYANO Fumimaro

二都市間交流事業プログラム<ブリュッセル>
滞在期間:2024.9–12
滞在場所:ウィールズ

綾野の作品は日常的なイメージや物体に焦点を当て、特定の言葉やフレーズの意味・語源を言葉遊び的に駆使しながら、文化的な習慣、伝統、信念の表現に疑問を投げかけています。滞在中には、ドイツ語で「紙皿」、英語では「物語るもの」を意味する《Teller》と名付けた作品/プロジェクトに取り組みました。ベルギーの国民食であるフリット(フライドポテト)の紙皿というイメージを通して、移民を含めた現地の人々の個人的・集団的な経験や記憶を、作者個人というフィルターを通して作り直し「翻訳された経験」を展開します。

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《双子(青)》《双子(赤)》2019
インクジェットプリント

金 サジ | KIM Sajik

二都市間交流事業プログラム<ソウル>
滞在期間:2024.9–11
滞在場所:SeMAナンジ・レジデンシー

家族から引き継いできたコリアン・ディアスポラとしての心の傷や、言語の壁を自覚しながら、金は作品表現を通じアイデンティティ・トラウマからの解放、人間の回復力の可能性を探究しています。韓国の日常生活に根強く浸透しているシャーマンや巫俗芸能の儀式を取材しながら、柔軟に他文化を吸収し根付く占いや儀礼が、どのように人々の心を解いているのかを調査しました。言葉がもつ所属を縛る呪術的な力や、舞踊がもつ言葉を介さないコミュニケーションに注目をしながら、傷を負った魂とその回復について考察します。

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《Koe Language Songs Project》2024
スピーカー(4ch)、マイク、映像、紙
Photo: Elis Hannikainen

小宮知久 | KOMIYA Chiku

二都市間交流事業プログラム<ヘルシンキ>
滞在期間:2024.8–11
滞在場所:HIAP[ヘルシンキ・インターナショナル・アーティスト・プログラム]

小宮は音楽のさまざまな規範を問い直しながら、現在のメディア環境と身体における新しい音楽形式を領域横断的に模索しています。日本語とフィンランド語には類似する単語(発音)や似ている文法構造が多い点に着眼し、両国の合成言語「Koe語」を作成しました。フィンランド民謡についての調査や現地アーティストとの協働を通じて、自動生成されるメロディとともに、この作成した言語による架空の民謡を取り扱ったメディアインスタレーション/パフォーマンスを発展させ、従来の作詞作曲の方法に縛られないプロジェクトを展開させます。

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《Celestial-cranial Instrument: Sutural Sundial & Sutural Moondial》
2022-2023
真鍮、ガラス製レンズ
Courtesy of TAG Art Museum、青島

陳哲(チェン・ズ) | CHEN Zhe

海外クリエーター招聘プログラム 
滞在期間:2025.1–3
滞在場所:TOKASレジデンシー

チェン・ズは近年の作品制作にあたり、人類("the below")が、天上の存在("the above")と交流を図る際の様々な方法について探究しています。多くのスピリチュアルな方法の中でも、お香を焚くことは神聖な存在への捧げる行為というだけでなく、アロマセラピーや瞑想、宗教儀式の一環としても行われます。レジデンス滞在中には、仏教と神道における焚香の歴史的変遷や、非常に複雑な熟練の技について、また人体を模したパーツを奉納する伝統について考察しました。本展ではそうして得た知見を、彫刻的なインスタレーション作品として発表する予定です。

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《蓄魂碑》2024
紙、クレヨン、墨、LED

露木春那 | TSUYUKI Haruna

二国間交流事業プログラム<台北>
滞在期間:2024.10-12
滞在場所:トレジャーヒル・アーティスト・ヴィレッジ

漢字や文字が持つ歴史文化に深い関心をもつ露木は、自身の祖母の体験から着想し、沖縄から台湾への疎開というテーマで文献調査や聞き取りを行いました。残された資料から読み取れる歴史だけでなく、「今ここにいる人とつながることの重要性」を強く感じた結果、自身に深く刺さったエピソードや理解に苦しんだ経験を作品に込めています。本展では、露木の特徴である文字の収集・模写の反復といった技法を使い、疎開した人々やそれを受け入れた(あるいは受け入れ切れなかった)人々が残した文字を通じて、文字と人間の心が共鳴する空間を表現します。

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《Where Lies My Carpet is Thy Home》展示風景、2024
© Lance Gerber

クリストファー=ジョシュア・ベントン | Christopher Joshua BENTON

海外クリエーター招聘プログラム 
滞在期間:2025.1–3
滞在場所:TOKASレジデンシー

ベントンは11年間生活しているアラブ首長国連邦(UAE)での経験を出発点にしながら、アイデンティティや労働、故郷といったテーマに取り組んでいます。ストーリー性のある彼の作品は彫刻や映像として具現化され、いずれもコミュニティの協働と労働者階級の連帯への信念から導き出された緻密な実践により生み出されています。本展では、中東が拠点のアフリカ系アメリカ人という自身のアイデンティティに通じる、ペルシャ湾と日本とアフリカをつなぐ海洋真珠取引の歴史に関してのリサーチ結果を反映した作品制作を構想しています。

関連イベント

第1期:アーティスト・トーク 1
日時2025年5月18日(日)16:00-17:30
出演ボリャナ・ヴェンチスラヴォヴァ、久松知子、森あらた
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金無料
言語日英逐次通訳

※日程および参加アーティストは変更となる場合があります。


第1期:アーティスト・トーク 2
日時2025年5月24日(土)14:00-15:30
出演木村桃子、山田 悠、リスキー・ラズアルディ
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金無料
言語日英逐次通訳

※日程および参加アーティストは変更となる場合があります。


第2期:アーティスト・トーク 1
日時2025年7月6日(日) 16:00-17:30
出演陳哲(チェン・ズ)、露木春那、クリストファー=ジョシュア・ベントン
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金無料
言語日英逐次通訳

※日程および参加アーティストは変更となる場合があります。


第2期:アーティスト・トーク 2
日時2025年7月12日(土) 16:00-17:30
出演AKONITO、綾野文麿、金 サジ、小宮知久
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金無料
言語日本語

※日程および参加アーティストは変更となる場合があります。


参加クリエーター

久松知子
ボリャナ・ヴェンチスラヴォヴァ
露木春那
小宮知久
AKONITO
綾野文麿
クリストファー=ジョシュア・ベントン
陳哲 (チェン・ズ)
金 サジ
木村桃子
リスキー・ラズアルディ
森あらた
カルメン・パパリア
山田 悠

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