谷崎桃子

レジデンス・プログラム

二都市間交流事業プログラム(派遣)

更新日:2023.10.10

谷崎桃子

参加プログラム二国間交流事業プログラム(派遣)
活動拠点日本
滞在都市/滞在先ケベック/センター・クラーク
滞在期間2023年4月 - 2023年6月
滞在目的

パンデミック後、近年の関心となっている不眠や精神疾患の病理や共存について、カナダで考えたい。カナダと日本の文化差は、医療の分野のアプローチにも大きく現れていると考えているので実際に行って調べたい。生死に関する実践や価値観も日本とは大きな違いがあり、レジデンスで出会った人達と対話をすることで価値観に触れたい。カナダを拠点としていたMatthew Wongなど日本では鑑賞できないペインターの作品を観る機会があれば軌跡をリサーチしたい。 上記活動と並行して、現在のテーマの作品をカナダの風景を含め制作し、深めたい。

滞在中の活動
  • リサーチ:カナダのモントリオールは医師会と美術館が提携して、身体と心の病気の治療法の一環として「美術館訪問」を処方できることになった初めての場所でもある。美術と疾患がどのように作用し、どんな成果が出ているか、調べたい。
  • リサーチ:モントリオールの風景の取材。自然や滞在中の周辺を写真やスケッチなどで残す。
  • 収集:中古家具やファウンドオブジェクトを使用した作品を制作してきた。現地で作品になる素材を集める。
  • 制作:これまでの制作で行ってきた絵画制作で部屋のモチーフがある。滞在中の室内の風景と絡めて制作したい。制作拠点から離れて制作することで俯瞰して生活の中のリアリティーや作品について考えたい。滞在を通して、一変した生活やそれに伴う不調などとの共存について多角的な視点から考えたい。
  • リサーチ:カナダ周辺の作家研究。精神疾患に苦しみながらカナダ周辺の風景を描いていたMatthew Wong、David Altmejd、カナダの土着的な作家Rebecca Belmoreなどアイデンティティーを研究する。
滞在中に行ったリサーチ及び制作活動

日本と医療やメンタルヘルスリテラシーの面で大きな文化差があるカナダで、精神的な不調を抱える人のコミュニティを訪れることや、それらの題材に向き合ったアーティストと対話をすることなど、様々な方向からリサーチし、不調との共存について新たな視点から考察した。また、滞在中に経験したアイスストームによる停電などの不便な状況の風景やその時の感情をもとに不調や非効率的な状況を肯定的に捉えた絵画を制作し展示した。

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

アーティストトークの様子

滞在の成果

作品における滞在の成果としては、モントリオールで、日本も含めて一番好きと思えるギャラリーを見つけることができて、ペインティングやセラミックの非常にストロングな表現の作品を見たことにより、自分の作品の表面的な課題が明確になった。時間や労力や思考的 なコストパフォーマンスを度返しにして、もっと一枚一枚大切に絵を描くことが自分の作品をもっと良いものにするために必要だと考えた。リサーチや視点の成果としては、精神疾患を持つ人に向けたアートを通したコミュニティでのワークショップや、精神的不調を社会的に捉えて発表しているアーティストや、現地の人と対話することにより、自分がどの立ち位置からどのようにこれから作品を発表していくかクリアになった。このレジデンスでの経験をもとに一度、テキストや本として出力をしたいと考えている。また、新たな多種多様な人たちとコミュニケーションを行うことにより新たな視座を獲得できたことは大きな財産になった。
アートの面ではモントリオールは州がアートにしっかりとお金を入れていることで、マーケットから少し距離があってもアーティストが活動できる環境にあり、絵も工程化されていない、マーケットに向かなそうな作品を多く見ることができ、可能性を感じた。そのアーティストが絵を売る事だけでなく、スポンサーや滞在場所からお金を得て制作活動を行なっていることが日本ではレギュラーではないので印象的だった。
滞在の中で衝撃的だったことは、最初にできた友人が母国のキューバに帰ることができなくなり、滞在の最後の方に会ってその国の政治や問題をリアルタイムで聞いたことが、とてもショックだった。アジアのことはよく考えるけど、ラテンアメリカやポストコロニアルについては日本では身近になく、知ることがなかった。文章やニュースではなく、自分の親しい人のバックグラウンドだったため、内容が立体的に感じられて、世界中の人や私たちが本来日本で向き合うべき各々の問題についてもっと知りたいと思った。

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

2023年、インスタレーションビュー、写真:Paul Litherland

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