今村 綾

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今村 綾

参加プログラム	二国間交流事業プログラム（派遣）
活動拠点	日本／ドイツ
滞在都市／滞在先	バーゼル／アトリエ・モンディアル
滞在期間	2019年4月 - 2019年6月

滞在目的

今回のプログラムでは、光とガラスによる全反射を利用したインスタレーションを制作します。ガラスを挟んで向かい合う異なるモチーフ(もしくは人）が光の反射像として瞬間的に重なり合う作品を計画しています。今回のインスタレーションは、人種、ジェンダー、身体等における差異と同一性の想像についての視覚実験です。

滞在中の活動（計画）

・ヴェール、Körper-Geschichteについてのリサーチ (Institut Kunst, Prof.BETTINA KÖHLER)
・シンポジウム'Women in Space' (Institut Kunst)
・DMX実験, Critical Media Lab,
・インスタレーションのためのダンサー、もしくはパフォーマンスアーティストを探す(HGF, Roxy, シアターグループ etc)
・インスタレーションの作成、フィルムドキュメント

滞在中のリサーチ及び制作活動

今回のプログラムでは、「Can We Look at Each Other? (私たちはお互いを見つめることができるのか？)」という視覚実験をインスタレーションと記録映像で行いました。暗闇の中、光とガラスによる全反射を利用しガラスを挟んで向かい合う二人の姿が光の反射像として瞬間的にガラス上に重なり合う空間を設置しました。また、向き合う二人の行動は異なる角度に設置された固定カメラによって記録しています。固定カメラの映像はライブプロジェクションとして別室で上映し、第三者が向き合う二人の行動をより外部から細かく観察できるように計画されています。

このインスタレーションは、相手の姿と自分の反射を交互に見ることができます。それは、決して「同時」に自分と相手を見つめることはできないということとを指します。‟二人の向き合えなさ‟という、例えば人種、ジェンダー、身体等における差異と同一性の想像についての現在的な政治性をタイトルとインスタレーションで表現しています。固定カメラは、「バラバラな‟個‟である人たちがどのように関係を紡ごうとしているか？」という問題を考察するための指針として機能します。 個体それぞれの差異と同一性の想像、「他者」であることを認識すること、お互いを見つめられるように注力すること（または、注力しないこと）、二人の反応や行動、そして関係性などを、この視覚実験を通して見つめることができればと意図しています。

滞在の成果、今後の活動の展望

今回の視覚実験の参加者は、既に知人同士である人たちが多くを占めます。結果的に、お互いの身体や動きをシンクロナイズさせるという反応が多く見られました。 例えば、次回はメインのインスタレーション空間に入る入り口を二つ設けることによって、ガラスを通して別室にいる全く知らない他者と思わず遭遇する空間をデザインすることを計画しています。ここでは、全くの他者に遭遇した時の人の反応を観察する目的があります。

今回の作品は、私自身が外国人(アジア人女性）としてドイツに暮らす体験が作品の着想としてあります。また、そこから視覚表象と社会学の実験:From Agents to Objects: Sexist Attitudes and Neural Responses to Sexualized Targets by Mina Cikara, Jennifer L. Eberhardt and Susan T. Fiskeなどを参考に制作前のリサーチを行ってきました。この論文では『人間は、服装が変わっているとか、異なる民族に属しているなど、外見に「違い」のある他者を目にしたとき、そのような相手を、主体性（計画し、行動し、自制心を発揮する能力）を有する者としてみなす傾向が低くなる』という傾向を示す内容が記載されています。視覚実験作品「Can We Look at Each Other?」で、目の前にいるのに見えない、向き合っているのに向き合えない、作品中で意図したもどかしさを日常生活の実体験に重ね共感し感想をくれた人の多くは、バーゼルに住む外国人や移民背景を持つ人達であったのが印象深く思いました。その体験談の多くは人種、ジェンダー、身体等における差異と同一性への想像が欠ける際に起こる偏見やバイナリ―への憤りです。スイスでは外国人労働者数の制限を求めた「大量移民反対イニシアチブ」が国民投票で五年前に可決され、私の住むEUとは異なる移民政策が行われています。そのスイスでこの作品を制作発表でき、意見を頂いたことは非常に貴重なものとなりました。

クリエーター情報