更新日:2025.3.24
| 参加プログラム | 二都市間交流事業プログラム(派遣) |
|---|---|
| 活動拠点 | 東京 |
| 滞在都市/滞在先 | ブリュッセル/ウィールズ |
| 滞在期間 | 2025年4月 - 2025年6月 |
数年前、身近な人が統合失調症の薬の副作用により昏迷状態となり、現在も意識不明のまま入院している。この経験をきっかけに、近年は精神疾患に関する作品制作を行なっている。この一環として、ベルギーのヘールにてリサーチを行う。日本精神医学・精神医療の先覚者である呉秀三は、1901年までヨーロッパに留学し、ベルギーのヘールに訪れた。彼は当時の精神科医療の先進モデルである里親制度を目撃し、帰国後、私宅監置や患者処遇の改善、治療方針の刷新をはかった。ヘールの街では、13世紀以来精神疾患のある人々が地元住民の家で一緒に暮らすという独自の伝統が続いており、現在もその習慣が息づいている。ヘールを訪れて、精神疾患やケアに対する意識などを調査したいと考える。
中世の聖人伝説を起源とし、精神疾患のある人々が地元住民の家庭で暮らす里親制度が今も根づくヘールに滞在し、伝説ゆかりの聖ディンプナ教会や、歴史を紹介するゲストハウスミュージアムを訪れ、制度や人々の意識の変遷を調査した。さらに、現在および過去に里親制度に関わった家族や、ヘールの街の様々な立場の人々に話を伺いながら交流を深め、16mmフィルムなどで撮影を実施。撮影したフィルムはベルギー国内のラボで現像・スキャンを行った。
地域に根ざした視点を持つため現地でホームステイ先を探し、幸運にも受け入れてくださる家族と出会えたことで、ヘールに生活拠点を置きながら、聖ディンプナ教会やゲストハウスミュージアム関係者、精神科病院OPZ内のアートスタジオ「クンストハウス・イエローアート」に関わるアーティスト、ホームステイ先の家族など、ケアと共同性を体現する多様な人々と日常的に交わる機会を得た。精神疾患と地域社会の関係について、制度的枠組みを超えて、身体的・感覚的な次元での理解が深まったことは大きな成果である。一方、言語的・文化的な差異や取材・制作調整に追われ、十分な休息を確保できなかったことは反省点であり、今後はセルフケアを内包した持続可能な制作プロセスの構築を課題としたい。また、今回のリサーチを通じて、「孤独な大人」が集う場への関心が高まり、今後もそのような場の観察・記録を継続的に探究していきたい。