更新日:2024.8.29
参加プログラム | 二都市間交流事業プログラム(派遣) |
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活動拠点 | 東京 |
滞在都市/滞在先 | モントリオール(ケベック)/センター・クラーク |
滞在期間 | 2024年4月 - 2024年7月 |
2023年にカナダのケベック州で発生した大規模な森林火災の報道に当時強く関心を持ち、山の木々から多くを享受し生活を営みながらも同時に災害とも隣り合わせである日本と共通する部分が多いのではないかと感じた。
森林を取り巻く、現在のカナダの木材産業や先住民と木々の歴史的関係についても着目し、自然環境と人類の共生について広い視点で作品に取り入れたい。
自身がこれまで日本で発表した、採集した枝を使ったインスタレーションをさらに展開し、木材に表出される時間感覚と人間が生きる時間について作品を通し考察する。
カナダで発生する森林火災への関心から、モン・ロワイヤルを中心に据えたモントリオールで人々は森林や木々に対してどのように考え暮らしているのか、インタビューやリサーチから作品を制作しインスタレーションへと繋げた。また、制作時間の多くを過ごした木工スタジオでは、日々そこで出会うアーティストや職人が何を作ろうとしているのかを作業場所を共有しながら、彼らの制作と生活のリズムについても肌で感じることができた。
リサーチのテーマの一つである森林火災について調査を進めるうちに、それが単なる災害でなく大きな生命の循環のために必要な過程であることが非常によく理解できた。さらに、アイスストームの被害が予想以上であることにも衝撃を受け、今回はそのアイスストームで倒木した木材を収集し作品に使用した。また、自身が現地に到着する直前に北米で発生した日食について、多くの人がその素晴らしい経験を伝えてくれた。見ることができなかった日食を想像しながら、太陽が地球に影響を与え、さまざまな現象を引き起こし、その一つとして災害が発生し、大きな自然のサイクルに繋がると考えた。これらのリサーチや現地の人々との交流を通じて得た知見を基に、遠い国で発生する自然災害を含む現象を新たな生命への循環の一つのシーンとして取り上げ、自身が収集した材料を使い日食を生み出す装置を中心に複数の作品で構成したインスタレーション空間を作成した。
大型の機械を有する木工スタジオを利用し、これまで手道具を中心に制作してきた彫刻作品とは異なる方法で作り上げたり、現地の電子機器を得意とするアーティストと相談しながら映像投影で作品を制作するなど、制作面でも新しい表現に挑戦した。
また、ライフドローイング会に参加したり、ギャラリーのオープニングパーティや街中で開催されるイベントに出かけ、多くのアーティストや現地の人々と交流することができたことも大きな成果である。制作やリサーチ以外の生活面でも頼れる友人たちができたため、彼らとの対話により滞在地への理解も一段深めることができた。モントリオールには様々な国や地域からの移民や複数のルーツを持つ人が住んでおり、カナダにおける先住民族の人権を取り扱った演劇を観られたり、作品について語りながら自然とポストコロニアリズムの話題が出たりすることで、現在進行形として現れる植民地支配の影響について気付かされることがあった。
今回、現地で手に入れた木材を使った作品を持ち帰るために植物検疫や重量物の輸送方法について様々な方法を検討し、作品もそれを考慮して制作した。結果として、大型で重量のある彫刻作品ではなく、小型で分解可能なインスタレーションへと自然に移行し、空間や光に対してより意識を向けた作品を作ることができた。今後は、素材そのものが持つ意味性にこれまでよりも興味を持って接するようになるだろう。
さらに、ポストコロニアリズムについて、日本や周辺のアジア諸国の関係においても現在進行形で植民地支配の影響があることも意識していきたいと思った。今回の滞在で得られた多くの経験と学びを生かして、今後も国外での活動にも挑戦していきたいと思う。
Wood Shopでの制作の様子、2024年
ⒸAlexis Bernard
アーティスト・トークの様子、2024年
ⒸAlexis Bernard
オープン・スタジオでの展示風景、2024年
ⒸAlexis Bernard
《Squirrel》2024年、木、100 × 245 × 405 (mm)
ⒸAlexis Bernard