更新日:2023.10.12
参加プログラム | 国内クリエーター制作交流プログラム |
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活動拠点 | 和歌山県 |
滞在都市/滞在先 | 東京 |
滞在期間 | 2023年5月 - 2023年7月 |
TOKASレジデンシーを起点にその周辺の水域から、東京の水脈をリサーチし、隅田川から神田川に侵入する。やがてTOKASのギャラリーを通り、そのうち井の頭公園の池に到達するのだろうか。神田川が高度経済成長期には生活・工業廃水が川に流れ込み、一時は「死の川」と呼ばれたにもかかわらず、現在はアユやサケまでもが遡上してきている事実が存在するということ。この都市の川の史実と存在について、身体的なリサーチとパフォーマンスを重ね合わせながら、東京という生物を顕在化させる。
滞在前半はTOKAS周辺の人工運河(竪川、大横川、小名木川など)に興味を持ち、入川する方法を模索した。後半は実際に手漕ぎ舟で川の中に入り、フィールドワークを行った。最終的なパフォーマンスでは、千葉市川の江戸川河口から、荒川、隅田川、神田川等を通り、東京の井の頭公園までの約50kmを手漕ぎ舟で遡上した。行為の過程で、都市河川の環境と歴史的背景に着目し、それらが様々な道として存在していることを自身の体験に重ね合わせた。
スタジオビジット
ミーティング
「東京遡上」と名付けたこのリサーチでは、ぼんやり東京の川を遡っていくぞ!とぐらいしか考えていなかった。幸いにもTOKASレジデンシーの周辺には人工河川を多く発見することができ、TOKASレジデンシーの裏側にはすぐ川が見えていて、リサーチに適した環境であった。東京の川を遡上するには、入川方法、ルート、船舶の種類、停泊、閘門の通過など色々と調べる必要があり、通船方法を定めるにはずいぶん苦労した。持ってきていたイカダでは東京の河川には不向きと判断し、持ち運びに便利なカヌーを購入した。(できれば船の制作も行いたかった。)
レジデンス後半はカヌーに乗って、墨田区〜江東区の川の中に入りながら様々な調査を行い、「道」としての川の存在に着目することにした。一つ目は「潮の道」。川の中にいると様々な生物に出会うが、クラゲ、スズキ、うなぎなど海水域に生息する生物も多く見られた。彼らを見ていると川にある潮流を感じることができた。海の生物は潮流に合わせて、東京内部の河川に侵入してきているということである。川中の警備船のおじさんに聞いたが、月の引力で大潮、中潮、小潮、長潮、若潮の5種類の潮の流れが生まれていて、特に大潮の満潮時は流れが早く激しいとのことであった。遡上には潮流が欠かせず、生物が川を道と捉え、常に流れに乗っている、あるいはつかんでいるのだと体感した。また鮎も東京の街中の川に向けて遡上している記録が新宿区の生物調査などからもわかった。
二つ目は「塩の道」。墨田区の旧中川や小名木川は東京の街の方面に向かう物流を通す運河だったことがわかってきた。江戸時代、下総国行徳(現在の千葉県市川あたり)では塩田があり、徳川家は塩を江戸市中に川を使って運ぶために、墨田区や江東区周辺の川を開削したのであった。当初は、江戸川の分流であった船堀川(現在の新川)を通り、開削された小名木川で隅田川まで至り、江戸市中へと向かうルートを辿っていた。調査で墨田区の塩とタバコの博物館にも行ったが、塩は国の専売であり、人間にとって真っ先に必要な資源であり栄養であったのである。
川を「道」の存在として捉え、 最終的に川の遡上を試みた。ルートは実際に江戸時代に塩の生成が行われており、かつ海水の入口となる千葉県市川市行徳の江戸川河口をスタートとした。途中はTOKASレジデンシーのある墨田区を通り、東京の中心地を走っていく神田川(TOKAS本郷前も通る)の源流となる井の頭公園を目指すものであった。
パフォーマンスを通して、海水を運び川を遡上した行為が一体どんな意味を持つのであろうか。辿り着いた井の頭公園には水の神を祀る寺院があったが、遡上する行為が海水及び海の塩を井の頭に届けたとすると、一種の巡礼の道だったと言えるのではないかと考えた。都市の水源とも取れる井の頭公園や水の神信仰について、都市の川の存在と紐付けながら、来年のTOKAS本郷の展示に向けて引き続きリサーチを続けたいと考えている。
オープンスタジオでの展示
オープンスタジオでの展示
パフォーマンスより
パフォーマンスより
パフォーマンスより