更新日:2024.9.13
参加プログラム | 二国間交流事業プログラム(派遣) |
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活動拠点 | 日本 |
滞在都市/滞在先 | ブリュッセル/ウィールズ |
滞在期間 | 2022年7月 - 2022年12月 |
「多民族国家(multinational state)」であり、同時に「多数エスニック国家(polyethnic state)」という複雑な歴史を持つベルギーにおいて、エスニシティとその背景にある諸問題について考察する。とりわけ、資本主義世界経済における不均等な発展、階層化、それに伴う労働力の国際的移動といった鳥瞰図的な視点と、実際にその場所で生活することになった人たちが現実に向ける眼差しを繋ぐ想像力とは何かを、フィールドワークを通じて考えたい。その媒体として、言語と習慣からなる身体性と、それらをフレーミングし、新たな視点から捉え直すための装置としての映像を用いる。
「Immigration(移住)」「Masculinity(男らしさ)」「Vulnerability(脆弱性)」 は6ヶ月間のブリュッセルでの生活、滞在制作の中で浮かび上がった3つのキーワードである。ある日、街で私に話しかけてきた22歳のモロッコ系青年との出会いから始まった。彼は映画監督として の北野武を敬愛していた。そして、モロッコ人不良を主題にしたバイオレントで芸術的な映画を撮りたいと私に持ちかけてきた。私は彼の提案を「真剣に受け取る」選択をした。しかし、一ヶ月とかからず二人の企画は夢のまま終わった。私は、目の輝きを失った、全く共通の話題がなくなった友人と交流し続けた。この話をすると大抵の人は笑う。しかし、彼の挫折とこの笑いは多くの示唆を含んでいる。傍から見たら取るに足らないこの出来事から、彼に限らず私にも関わる問題について検討することになる。
このレジデンスでは、立ち止まらずにアウトプットし続けることを意識してきた。日常生活、フィールドワーク、他のアーティストとのディスカッションも含め、相手との間の前提とするものの違いから生じる齟齬や刺激に対して、可能な限りアウトプットを残すことで反応してきた。結果として、新たな視点や制作方法を得ることができた。また、ヨーロッパで活動することの利点や難しさなどを知ることができた。今回は多くの時間をリサーチと制作に費やしたことで多くの成果を得たが、同時にどのように自身の活動を支えるエコロジーを整備できるのかに関して、もう少し考えることが出来ればよかったように思う。