森下周子

レジデンス・プログラム

リサーチ・レジデンス・プログラム

更新日:2019.11.27


森下周子

参加プログラム    リサーチ・レジデンス・プログラム
活動拠点イギリス
滞在期間 
2010年6月 - 2010年7月
滞在目的

多分野のアーティストに開かれた場所であること、滞在型プログラムであること、この2点を生かし多角的な視点で音楽作品を'制作し、発表すること'を再検討したい。

滞在中の活動

OPEN STUDIO 2010
『間』という日本特有の美学をリサーチする。中旬に予定している演奏家とのコラボレーション・プロジェクトでは制作プロセスに焦点をあて、対話型の音楽制作を行う。

<活動報告>
滞在中のハイライトは、6月14日から20日にかけて行ったELISION ensemble(オーストラリア)サックス奏者、Timothy O'Dwyer氏とのコラボレーション・プロジェクトだった。作曲家としての自らの役割を「"その"演奏家の技術や創造性を最大限に引き出すシチュエーションを用意すること」と位置づけ、事前に作曲したものを基に、共同作業プロセスにおいて現れた要素を再構成する方法でヴァリエーション・ピースの制作を行った。この一定のプロダクション期間を設け、演奏家がもたらす情報を作品に加味していく手法には発展の余地が見られたので、今後も継続的に試してみたい。

フィンランドの作曲家ユハ・コスキネン氏とはリサーチ・セッションを行った。能や文楽などの伝統文化、湯浅譲二氏の作品『interpenetration for two flutes』などを媒介に、「間」という日本美学を作品に組み込む可能性をノーテーション、構造、楽器(歌唱)法などから探った。ここでわたしが大切に思えたのは、固有文化が持つ情報を<観念>ではなく<体験>レベルとして消化させること、エキゾティシズムに留まらないことの2点である。そのための方法論=システム構築においては、個々がもつ(時間)感覚を生かす全体構成が鍵になるのではないかというのが現時点での結論である。

全滞在を通してローカル・クリエイターの亀井佑子氏との交流は大きな刺激だった。ダンサー(インプロヴァイザー)としての背景を持ちヴィジュアル作品の制作を行う彼女とは、指示者(作曲家、振付家など)とパフォーマーの関係性、サウンドや身体の持つイメージ/象徴性など多岐について話し合ったが、<時間と空間>に対する考察を逆ベクトルから行うような対話は新鮮だった。時間の推移を「聞く」ための空間設定という私の発想と、空間に時間軸を設定することで現れる事象を「見る」という彼女の発想の対比である。それらを通して得た'人と人との関係性、或はその構築プロセス自体を「聞こえる」「見える」形としてステージにする'というアイディアを、更に煮詰めて形にしてみたい。


<総論>
音楽的には特に時間軸について考察を行い『間』という美学に対する自分なりのアプローチ法を模索したが、その多義性と、エキゾティシズムの問題---自国の文化情報を音楽作品に用いること、西洋と東洋という二項対立の図式、それらに「今」焦点をあてることへの疑問---に行き当たった。スタンスを明確にし、作品に反映させることが今後の課題である。なおリサーチにおいては能楽師、金春憲和氏にご協力頂いた。その他には作曲家一柳とし氏、湯浅譲二氏とのミーティングや、若手日本人作曲家とのセッションにゲスト・コンポーザーとして参加した。これらの活動は各国の若手クリエイターとの交流が日常的にあるTWS青山の環境と、ディレクターの家村氏をはじめとするスタッフの方々のサポートに支えられたところが大きい。特に玉虫さん、遠山さんには力を貸して頂いた。

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