更新日:2019.11.29
参加プログラム | 国内クリエーター制作交流プログラム |
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活動拠点 | 日本 |
滞在期間 | 2009年5月 - 2010年3月 |
・音楽の中での言語の在り方を追求していきたい。言語(体系)自体から音を紡ぎ、
編むという方法論を、言葉を伴わない純粋な器楽作品に使うことを検討していきたい。
・日本の伝統音楽(能と声明など)を扱った創作活動を今後も継続していくこと。
・独自の音の『身振り』の追求。
OPEN STUDIO 2009
協働スタジオプログラム 4「 アートと環境との対話」
青山コモンズ 桑原ゆう ワークショップ
「ことば=おとあそび─音であいさつ。─」
現代日本の作曲家と出会う 第4回
「高橋悠治の音楽」
2009年度 TOKYO EXPERIMENTAL FESTIVAL ─SOUND, ART & PERFORMANCE
第3回 インターナショナル・アンサンブル・モデルン・アカデミー
作曲ワークショップ(文京区立本郷台中学校)
上記の目的を達成するために、音楽以外のジャンルにいる人達とも積極的に交流を持ち、幅広く作品に生かしていきたい。期間終了時までに、身体や映像を伴った複合的な楽曲をつくり、音楽の可能性を追求する。
[ 活動報告 ]
■成果発表リスト
*Doll-Blind(2008)
for Tenor Recorder and Accordion
Edition Wunn(ドイツ)より出版
*レクイエム(2009)
録音とビデオによるインスタレーション
10月10日 @MAX ART FEST(クロアチア)
*ラブソングⅢ(2009)初演
for Great Bass Recorder, Violoncello and Accordion
10月20日 @東京オペラシティコンサートホール
第78回日本音楽コンクール作曲部門本選会
*上野タウンアートミュージアム2009・町中アート大学
音楽会『円を聴く 優しいひとたち』
10月23日 @小島アートプラザ三階(旧小島小学校)
*ワークショップ「ことば=おとあそび-音であいさつ-』
10月24日 @国連大学中庭
*青森蛙(2009)初演
for kotouta
11月14日 @トーキョーワンダーサイト渋谷
現代日本の音楽家と出会う 第4回 高橋悠治の音楽
*ディン・Q・リー(ベトナム)のドキュメンタリー作品のためのBGM
アートの課題:On the Agenda of the Arts
2009年11月21日(土) - 2010年01月17日(日)11:00 - 19:00
@トーキョーワンダーサイト渋谷
*"OHYARAI"VARIATION (2009) 初演
for Flute to Camilla Hoitenga
12月6日@熊本市現代美術館
Winter Holiday Concert Series 2009 "Winter Fantasies for Flute"
*"OHYARAI"VARIATION (2009) 再演
12月9日@東京アメリカンセンターホール
Winter Holiday Concert Series 2009 "Winter Fantasies for Flute"
■11月以降の活動について
『青森蛙』初演後は、主に最終発表の『入れ子物語』の舞台の制作に力を入れた。
その合間に、再び日本に来たカミラとの共同作業を続け、6月にすでに完成していた『"OHYARAI"VARIATION』が東京と福岡で演奏される運びとなった。この作品は能の囃子のリズムや能管の唱歌にアイデアを得て書いたもので、とても身体的な作品となった。
『入れ子物語』は私が初めて自分でプロデュースをし、企画から演出、美術、はたまた面作りまでを手がけた作品となり、とてもいい経験になった。(企画内容はhttp://emptyset.jp/ireco/参照。)私がいつも自分の精神世界として持っているものをすべて取り込み、観客に「何か悪い夢を見た」と思わせるような作品にしようと思った。
結果、ある程度自分ならではの世界を提示することができたと思う。2月の初演を終え、その反省を活かして3月の再演を行なったが、公演すればするほど、もっとやってみたいことが見えてくる。とくに、身体表現の面、照明の扱い方、エレクトロニクスの扱いなど、またさらに考えを深め、どこかで再演できたらと思っている。
『入れ子物語』は私にとって貴重な作品となったが、今までの作品と違い、いろんな分野の方から反応があった。 また、最も大きかったのは、参加した演奏者からの反応と感想であった。私の曲の中で、音を生み出すために意識されている身体や呼吸の在り方の前提が、彼らの普段の演奏方法にはない、もしくは全く異なるにもかかわらず、それを彼らが興味深く思い、さらに今後も彼ら自身の中で追求していきたいと思ってくれた。私は自分の曲が、演奏者の考え方や表現に少なからず影響を与えている実感を、今回ほど強く感じたことはなく、何よりそれが自分にとっての成果となった訳だが、このことは私に、奏者とお互いに影響を与えあいながら、一緒に音楽表現を追求していくことも可能なのではないだろうか、という考えに到らせるようになった。また一方で、演奏家の中には、いまの自分の表現に満足しておらず、新しい表現方法を開拓したいと思っている人達もいるのだという、同世代的な表現需要があることもじんわりと思うようになった。
『入れ子物語』の合間にベティーナと共に行った中学生とのワークショップも、私にとってとても素晴らしい体験だった。生徒さんたちは思ったよりずっと素直で、とても自由に、楽しそうに共鳴してくれた。10月の子どもたちとのワークショップも思いかえし、私の次の世代にあたる子どもたちの教育も、私たちには任されているのだと実感した。日本を文化的に豊かな国にするために、受験勉強のような教育でなく、もっと創造力や感性を養う教育を増やすにはどうしたらいいかを考えていくことも、私たちアーティストにはとても大事な課題であると思う。
■7月から10月の活動について
7月の終わりから8月初めにかけての協働プログラム。私たちのグループは、ゴミはゴミでも『いのちのゴミ』をテーマにした。最終発表として、何か作品になるクリエイティブなものを目指す訳ではなく、英語で自殺、命、社会、環境などについて長時間の議論をしてほとんどの時間を過ごした。いつも日本を出たときに驚くのは、海外の同世代のクリエイターは、日本の同世代のクリエイターよりもはるかに深い思考力と言語力とを持っていることだ。考え方、ことばの使い方、伝え方、どれをとっても海外のクリエイターの方が上だし、積極的だ。そして、自分の国の状況についてもよく考えている。それに対して、日本にいる私たちは日本のことに全然興味がない。今回も、日本の自殺者数の多さについての話をしているのに関わらず、同じグループだったイギリスのふたりの方が発言が多く、少し情けない気持ちになった。
グループワークで、毎日一生懸命英語を聞き、なるべく発言するように自分に積極性を強いたことが、とても良い経験になり、アーティストである前に人間として、自分の生きる社会についてもっと考えなければいけないと思えたことがとても良かった。
第78回日本音楽コンクール作曲部門の本選会に残り、10月20日に『ラブソングⅢ』の初演がなされた。この作品は、"言葉と音楽の可能性を探る"ための実験的な曲だ。陀羅尼経の母音と子音を分解して音の中に混ぜ、直接的に言葉は聴こえないが、音楽の中に言葉が感じられるような作品を目指した。太くなったり細くなったりする緊張感の持続を作ることができて、自分の音世界が広がり、次の作品につながるいい曲になったと思う。
10月24日の『音遊びワークショップ』。自分発信のワークショップを初めて行った。私が作曲をするときに行う、言葉から音をとりだす行為を、みんなで体験するワークショップである。そのときのレジデンシーたちの世界のあいさつを聞きとり、鍵盤ハーモニカを使って音にして、みんなで合奏した。いつもの机の上での作業ではなく、自分の身体を使った表現で、しかもみんなを巻き込まないといけないというのでとても不安に感じていたが、ワンダーサイトのみなさんの協力を得て、なんとか形を作ることができた。子供たちの身体のどこかに、あのワークショップでの経験が残れば嬉しいし、私自信、こんなこともできるんだと自分の中に新しい発見があって、自信が持てて嬉しかった。できればこういう活動は続けて行きたい。
『青森蛙』を書く前に、詩を口に出して何度も読んだ。詩の元々持つ音楽やリズムを言葉の中から注意深く聴いて取り出し、それを包み込んで自分の音楽にしようと考えたからだ。初めは、高橋先生という大きな存在の前で、私はあまりにちっぽけで身動きがとれなかった。でも、いろいろ考えるうちに、自分のできることをしようと思えてきて、少し楽になった。
『青森蛙』は私にとって今までとはまったくちがう曲になった。まず自分にとって得るものが大きかったのは、絵のような譜面を書いたことだ。私は普段から、音を音程としてとらえるのではなく、粘土やスライムのようなものとして触覚的に感じ、その粘土を組み合わせるように作曲している。その粘土の動きを見えるものとして書く作業をすることで、今まで考えてきたことがよりクリアになった。やはり、演奏家との関わり合いはとても大事で、そういう譜面作りのアドバイスをくださった西さんとの時間は、私にとってとても貴重だった。そして、高橋先生という歴史そのもののような方のコンサートで、私の曲が初演されたこと
にとても感謝している。
■5月から6月にかけての4つの大きな出逢い
TWS青山での初日のプレゼンテーションで、共に国内クリエーター製作プログラムに参加する荒神明香さんのお話を初めて聞いた。私は個人的な考えをもとに作られている作品が好きなので、彼女独特の感じ方やものの見方がそのまま作品になっていることにとても共感した。彼女の作品は、目に見えるものを白紙にし、実際には目に見えないものを浮き上がらせているようで面白いなと思う。
レオ(Leo Katunaric)は、今年2月に初演した、20名の声明師のための『レクイエム』にとても興味を持ってくれた。西洋のクラシック音楽の土壌の上で日本のものを扱おうとしているのが面白い。と彼は言った。不自由な英語のせいで、私は作品についてあまり詳しく説明できなかったのだけど、彼は私が曲の中で実現したかったことを驚くほどよく汲み取っていてくれていたと思う。そして彼の新しいプロジェクトについて話をしてくれた。
カミラ(Camilla Hoitenga)が滞在すると聞いていたので、フルートソロのための曲を書いた。カミラは実際に音を出してくれて、特殊奏法や記譜を直してくれた。ミーティングの最後に、「スコアにfor Camillaと書いて。」と言われたのが嬉しかった。曲を気に入ってくれてコンサートで演奏してくれるそうなので、とても楽しみだ。
『"OHYARAI"VARIATIONS』は能管の唱歌をもとに書いた。能管の譜面にあたるものは、「オヒャライヒヒョイウリ~」というカタカナの文字のつながりで、これを唱歌という。いわゆる譜面で普通示される「音の高さ」ではなく「指使い」が文字のひとつひとつに割り当てられている。結果の音ではなく方法が示されているのがとても面白いし、呪文のようなカタカナの音のつながりも面白い。私は文字を媒介として音が出されることに特に興味を持ったので、それぞれの文字に対するイメージを集め、それをもとに音を選んで作曲した。
譜面「"OHYARAI"VARIATIONS」、カミラ・ホイテンガとの交流風景。