藤倉 大

藤倉 大

FUJIKURA Dai

プロフィール

1977年4月27日大阪府生まれ。15歳で渡英し、トリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックでダリル・ランズウィック、ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックでエドウィン・ロックスバラ、キングス・カレッジでジョージ・ベンジャミン各氏に師事。若い作曲家であるにも関わらず、セロツキ国際作曲コンクール最年少優勝、ハダースフィールド国際音楽祭作曲コンクール優勝、武満徹作曲賞第2位受賞、国際ウィーン作曲賞(クラウディオ・アバド作曲賞)、パウル・ヒンデミット賞等、著名な作曲賞を受賞し国際的な認知を確立。ペーター・エトヴェシュやピエール・ブーレーズから評価され、ルツェルン音楽祭や英国放送協会などから委嘱、ロンドン・シンフォニエッタ、アンサンブル・モデルン、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、シカゴ交響楽団といった世界的なオーケストラやアンサンブルにより演奏されている。2009年はフィルハーモニア管弦楽団と名古屋フィルハーモニー交響楽団の共同委嘱のピアノ協奏曲や読売日本交響楽団委嘱作品が初演された。2008年ギガ・ヘルツ賞特別賞、2009年尾高賞、芥川作曲賞、2010年中島健蔵音楽賞を受賞。

作品/パフォーマンスについて


プログラム・ノート―藤倉大≪Mirrors≫(2009)[6 cellos]

シカゴ交響楽団(CSO)から、オーケストラ・メンバーの任意の6名の奏者のための室内楽作品の委嘱がありました。CSOは世界でもっともすばらしいオーケストラのひとつなので、通常の室内楽作品とは違うことをしたいと思い、単一の楽器セクションのために曲を書こうと決めました。とはいえ、すべてのセクションが素晴らしいため、どのセクションのために書くかを決めるのは極めて難しいことでした。自分で決めることができなかったので、友人たちに聞いてみましたが、皆がそれぞれ違う意見を持っていたため、さらなる混乱を招く結果となってしまいました。結局、とても仲の良い友人がCSOのチェリストだという単純な理由から、チェロのセクションのために書くことを決めました。

2008年にピアノ・コンチェルトを書いてから、打楽器的な音と持続的な音との関係性を整理しようと試みてきました。そのピアノ・コンチェルトにおいてはふさわしい解答を見つけたのですが、さらに別の創作のなかでも発展させていきたいと思っていました。《Mirrors》の冒頭では、ピチカートの音と、ピチカートの音の逆回しのようなアルコ(弓で弾く音)の持続音とが交互にあらわれるのを、シンプルかつ明確に聞くことができるでしょう。こうした逆回しのような音の効果は鏡のようですが、動作だけでなく和声もやはり鏡のようになっています。それがこの曲のタイトルの由縁です。しばしばこの鏡は歪められますが、そのとき音の素材は、催事場のミラー・ハウスに入ったかのような様態になります。このような「鏡」というコンセプトは、曲全体に水平的・垂直的に行き渡っています。

僕は、速いテンポで書かれたピチカートの部分がチェリストにとってかなり弾きにくいのではないかということが気にかかっていました。しかし、それこそ僕がほしいと思っていた効果なので、複数人のチェリストでそれを解決しようとしなければなりませんでした。幸運なことに、CSOが最近ロンドン(僕が生活し、作曲している街)を訪れたときに、チェロ奏者の友人のホテルの部屋に押し掛け、さまざまなことを試みることができたのでした。

この曲を書き上げた後、ふと今までの自分の旅行の経験などを思い出していたのですが、前にシカゴを訪れた時――それもCSOの「Music NOW」というコンサートに出席するため――アニッシュ・カプーアの彫刻《Cloud Gate》を見に行ったことがありました。自分でもびっくりしたのですが、この作品の視覚的な効果は(もちろん書いている時には考えもしなかったのですが)僕が《Mirrors》で思い描いていたものと非常に似通っていたのでした。もしかすると、僕が最後にシカゴを訪れたときの懐かしい思い出が、心の奥底に残っていたのかもしれません。

(編集:ハリー・ロス)


※ トーキョーワンダーサイト×N響「NEW PIONEERS―次世代の開拓者たち」公演パンフレットより

ページの先頭へ