更新日:2024.12.18
参加プログラム | 二都市間交流事業プログラム(派遣) |
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活動拠点 | 日本 |
滞在都市/滞在先 | バーゼル/アトリエ・モンディアル |
滞在期間 | 2024年4月 - 2024年6月 |
世界でも数少ない安楽死 (Sterbehilfe)を合法化した国の一つであるスイスでリサーチを行い、宗教的信念と社会的価値観の相互作用について、その意義を熟考したい。私は安楽死に必ずしも肯定的ではないが、安楽死 (Sterbehilfe)が特権や資本主義と結びついていることは無視できない。バーゼルが安楽死と活発なアート市場の両方において際立っていることは、ポスト資本主義の文脈における現代アートの役割について、興味深い問いを投げかけている。この試みを通して、私は安楽死に関する批評的な対話を促進する一方、死をめぐる複雑さを掘り下げる作品を制作することを目指している。
安楽死のリサーチでは、現地の経験や人々との対話を通じて、私の理想とは異なるリアリティを学んだ。偶然に出会った方の家族の安楽死の状況を間近で知り、インタビューを行うこともできた。また、リアルタイムで危機的状況であるイスラエルによるパレスチナ問題に非常に心を痛め、バーゼルでも抗議活動に参加しつつ考え続けながら、それらを旧シナゴーグのアートスペースで行った展示に反映した。
《Behind of Queen Bees Death》 2024年、サウンドインスタレーション
ⒸDemet Lydogan
「INTERSTICE」 2024年、告知ポスター
《Behind of Queen Bees Death》 2024年 ⒸAram Sürmeli
安楽死をリサーチするという目的で伺ったバーゼルでは、様々な人との出会いがあり、様々な角度から安楽死の話について話し合う機会があった。一方で、私が渡航前に持っていたある種の偏見「スイスでは安楽死が大々的に認められており、そこに暮らす人々はこの話題について話慣れているのではないか」という考えは単なる理想でしかなかったことに気付かされ、多くの人が少々迷いながらもそれでも自分の意見を話してくれたことはとても良い経験であった。
滞在中もっとも印象に残ったのは、偶然にもバーゼルで4月に知り合った方の友人の祖母が丁度5月までに安楽死をする状況であると知り、6月にお葬式後の送別会にあたるセレモニーに参加させていただき、そしてその親族にインタビューをする機会をいただいたことである。セレモニーやインタビューの内容が大変興味深いものであり、とても考えさせられ学んだ経験として印象に残っている。また、国境を超えてスーパーに買い物に行ったり、ライン川で泳いだり、パレスチナ連帯の抗議デモに参加したりした経験も良い思い出である。
バーゼルと言えば、資本主義の極みとしてのアートバーゼルというアートマーケットのイベントという印象であったが、今回3ヶ月という長期で滞在した経験は、普通のバーゼルは全く異なる小さな町で、それでもアートスペースや美術館、博物館が多く文化に富んだ素敵な都市でありながら、スクウォット文化やアクティビズムも組織体制がしっかり整っていることが分かり、偏見がかなりなくなった。
《A Green Light Room》 2024年、サウンドインスタレーション
《蜂起》 2024年、インスタレーション詳細部分