更新日:2024.4.4
参加プログラム | キュレーター招聘プログラム |
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活動拠点 | ホーチミン |
滞在都市/滞在先 | 東京 |
滞在期間 | 2023年9月 - 2023年11月 |
数年前、関口涼子の『なごり』という本に出会った。彼女の作品では自然と自然が生み出すものへの観察に終始し、波の形跡と過ぎ去ったばかりの季節のノスタルジー両方を示す表現に自身は強く引き付けられた。この出会いを通して我々の言語の本質となる細やかな知覚を少しだけ感じ取るができ、翻訳不可能な言葉とそれらがいかに今度はアート作品に翻訳されるかをテーマとするプロジェクトを展開するきっかけになった。時として私たちは、言葉がいかに個々の文化や世界の感じ方、経験の仕方を深く形成してきたか、言語のニュアンスがいかにそれぞれの文化を定義不可能でユニークなものにしてきたかを忘れる。私たちは常に感覚や感情を摂取しながら、それらを概念として整理し、言語によってアクセスできるようになった言葉に従って、あるものを他のものよりも優先させるのだ。継続的な探求であり様々な言語に翻訳可能なこのプロジェクトは、アーティストの作品を言語的な視点や感受性と結びつけ、辞書での記述の向こう側に行く没入体験をもたらしながら、新たなアート作品を発展させ、私たちの文化について多くを包含する翻訳不可能な言葉に結びついた既存の作品を発表することを目的としている。
「Of Subtle Perceptions(微妙な知覚について)」と題した長期的なキュレーション・プロジェクトを立ち上げることを目標にレジデンスに参加した。このプロジェクトは、言語相対性の理論的枠組みと、特定の文化や言語が私たちの世界観にどのように影響を与えるかに基づく。それぞれの章や場所ごとに、アーティストとのインタビューを重ね、彼らのアート制作の言語が、その土地特有の文脈や理解とどのように交わるかを理解しようと試みている。この継続的なデータは、インタラクティブなウェブサイトやオンライン出版物に掲載される一連の短いテキストへと徐々に変化する。第2段階では、彼らが選んだ翻訳不可能な言葉、そして、それらの言葉をどのように作品に翻訳していくかに基づいて、アーティストとのコラボレーションを提案し、新しい作品群を発展させる。また、今回のレジデンスは、アーティスト、キュレーター、研究者、様々なアートスペースや組織とつながる機会と、日本とベトナムの間に新たなネットワークや交流が生まれることを期待している。
多孔質・即自的・自発性-山中suplexの別棟「MINE」にて行われたトークのチラシ(2023年11月)
Tra Travel主催の「Beer with Artists」トークに参加し、大阪のアーティスト・コミュニティを垣間見ることができたことに感謝。
TOMO都市美術館でパフォーマンス・アーティストのトモトシがパフォーマンス・アーカイブを紹介するのをワクワクしながら待つ。
このプロジェクトは、レジデンス期間中に立ち上げ、テストをしたばかりで、実験的な段階であった。その方法論とインタビュー・システムは、常に再調整が必要となった。というのも、独自の物語と歴史を持つ既存の作品を扱うという性質だけでなく、アーティストに、これまでの自身の活動を短時間で要約してもらうことの難しさもあったためである。また、翻訳不可能という概念を定義するために、他者との関係において、その他者の言語を十分に理解する必要があるなど、言語的な課題もあり、プロジェクトのペースを落とし、時間をかけてインタビュー形式を細分化する必要性が浮き彫りになった。
インタビューとそれに続くテキストは、オンライン・アーカイブを立ち上げるためのものであったが、実際には、アーティストの思考と創作プロセスを理解すること、これらの発見を一般の人々と共有すること、そして、私たちの長期的な目標である「翻訳不可能な言葉というアイデアを使って、アーティストと私がゼロから新しいアート作品を創るにはどうすればいいか」ということに、より興味を持つようになった。アーティストとキュレーターのコラボレーションというこの種のプロジェクトにおける信頼関係の構築は、2〜3時間のインタビューでは非常に難しい。
このプロジェクトを継続するためには、より長い時間をかけて話し合いを継続し、2度目、3度目、あるいはそれ以上の対話の機会を得る必要があることが分かった。新たなインタビュー対象者からデータを集めるのではなく、これまでに出会った人たちとの時間に重きを置く。プロジェクトの核心である「翻訳不可能な言葉」に焦点を絞る前に、私はまず、彼らのアート言語、アート制作の文法、そして、アイデアの語彙を完全に理解する必要があった。これらは、テキストの作成や今後のコラボレーションの指針やマインドマップとなるであろう。
2024年1月から3月まで、石橋財団と国際交流基金のフェローシップを利用して再来日し、リサーチを続ける予定である。この機会に、東京と大阪で2度目のアーティスト・インタビューを行い、京都、広島、沖縄など、他の文脈のアーティストにも会えることを期待している。収集したデータの中に不均衡があることを留意しており、今後の来日でそのような知識のギャップを埋めたいと思っている。
アーカイブは誰にでも開かれており、あらゆる言語、世代、媒体を歓迎する。活動において言語を特徴とするアーティストは、興味深くはあるが、必須の条件ではない。私のメディアの可能性と戦術を真に考慮に入れているアーティスト、自身の実践と方法論に関して自己認識や内省を示すアーティストに興味がある。
このプロジェクトはまだ初期の調整段階だが、長期的に見て可能性があると信じている。アーカイブは発展し、蓄積され、より多くの単語や言語に開放されうる。展覧会としても、同じ言語グループからアーティストを招聘する、あるいはテーマに沿ってさまざまな言語を取り上げることで、形を変える可能性がある。3月に机に向かって、このリサーチの初期段階から何が出てくるか楽しみである。
キュレーター・トーク Vol. 2 ベトナムのコンテンポラリーアート・シーンについて話す
オープンスタジオの展示準備 Photo credit: Marko Vuorinen
Open Studio presentations at TOKAS Residency