有川滋男

レジデンス・プログラム

二国間交流事業プログラム(派遣)

更新日:2019.12.19

有川滋男

参加プログラム   
二国間交流事業プログラム(派遣)
活動拠点 日本
滞在都市/滞在先 ベルリン/クンストクアティア・ベタニエン
滞在期間 2019年10月 - 2019年12月
滞在目的

排他的な姿勢や極端な言動が世界中で蔓延している昨今、国家や歴史の問題を多角的に捉え直すことが必要です。人種的、社会的、文化的、政治的多様性を持つ都市ベルリンで、移民や難民となってそこに暮らしている人たちとともに制作することで、新たなアプローチができることを期待しています。
ここで焦点を当てたいのは移民や難民と聞いてすぐに思い浮かぶようなステレオタイプ化された移民・難民像ではなく、より個人的もの、習慣が環境に準じて変化していくようなそういったミクロな視点から見られる物や事です。
ステレオタイプを一度白紙にして、場所とそこに移住してきた人たちの関係性を流動的に捉えることを目指します。

滞在中の活動(計画)

・2015年にシリア、アフガニスタン、イラク、イランから逃れてきた多くの人たちが、現在ベルリンではどこでどのように暮らしているか、受け入れ側であるドイツの対応なども同時にリサーチ。
・その中から特定の人物あるいは家族を対象とし、より個人的な物語、習慣、それに付随する物、あるいは新たに身につけたふるまいや作法などに着目。
・さらにそれらを細分化し、別々に組み合わせたり意味をずらしながら、異なる行為や物とその環境の可能性を探る。
・そのアイディアを元に映像を主なメディアとしたインスタレーション作品を制作。

滞在中のリサーチ及び制作活動

2015年に武力紛争による大量の避難民を受け入れたベルリンで、2019年現在、彼らが新たな社会や文化の中でどのような暮らしを送り、ドイツそして祖国をどう捉えているかリサーチを行った。その中でも、ある特定のシリア人の個人的な体験や視点に着目し、第二次世界大戦の記憶を多く残しているベルリンの風土や日本の風習、ベタニエンの建物の歴史も踏まえてビデオインスタレーション作品を制作、スタジオにて展示を行った。

滞在の成果、今後の活動の展望

2015年以来念頭にあった、紛争に伴う避難民に関するテーマでリサーチを行い作品を制作することができました。 ナチス迫害の犠牲となった人々の記念碑として、石畳の中に真鍮のプレートで覆った玉石を設置するドイツ人アーティストの作品”Stolperstein”からインスピレーションを受け、石畳に使われている玉石をマテリアルとして使用。ドイツとシリアの両者に通底する歴史を紐解きながらベルリン市内をガイドするツアーのガイドであったシリア人男性の個人的な経験を、玉石を積むという行為を通して示唆することを試みました。石が積まれている光景は世界中でみられますが、それは例えば、道しるべであったり、記念碑であったり、祈りの印であったり、日本では賽の河原の話に出てくるように、生と死の境界であったり、故人の弔いであったりします。ドイツとシリアと日本、それぞれの要素を織りこみながら、個人の物語を重層的に提示する作品を制作しました。

今回初めて社会問題を直接的に作品に還元していく上で、 紛争と難民の問題がいかに繊細に扱わなければいけないトピックか、そしてそれを体験していない日本人の私がどう取り組むのかということが問われていて、それは今後も常に考えていかなければいけません。日本でも移民管理局の対応などがメディアで取り上げられるようになりましたが、実際に多くの避難民が日本にも暮らしています。多様性を認める社会づくりがやっと動き出した日本でも無視できない問題であることは疑いの余地がありません。今回の滞在を経て、アーティストとしてこの問題にどのようなアプローチができるのか、どのような提示の仕方ができるのか考え続け、継続して発表していきたいと思います。

《石を積む》15分のビデオループ、石畳の玉石/サイズ可変、2019-2020

《石を積む》15分のビデオループ、石畳の玉石/サイズ可変、2019-2020

《石を積む》15分のビデオループ、石畳の玉石/サイズ可変、2019-2020

《石を積む》15分のビデオループ、石畳の玉石/サイズ可変、2019-2020

《石を積む》15分のビデオループ、石畳の玉石/サイズ可変、2019-2020

クリーンアップ後のスタジオにて。

クリエーター情報

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