あらゆる表現活動が集まるプラットフォームの構築を目指し、2016年より始まったトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)の企画公募プログラム「OPEN SITE」の2024年度実施企画が決定しました。
2024年2月から3月にかけて実施した公募では279企画が集まり、書類審査と面接審査を経て展示部門4企画、パフォーマンス部門2企画、dot部門1企画を選出しました。さらにTOKAS推奨プログラムを加えた全8企画を、2024年11月から2025年2月まで2会期にわたり開催します。
開館時間:11:00-19:00。入場無料。
各会期初日には公募審査員をゲストに迎え、オープニング・トークを実施します。
Part 1|2024年11月23日(土・祝)~12月22日(日)
企画者 ハビエル・ゴンザレス・ペッシェ(Javier GONZÁLEZ PESCE)
企画名 「mundo」
9名のチリのアーティストによる展示。人間と自然とのつながりと、これらの領域に政治が媒介することを、現在過去未来を含めたさまざまな視点から提示する。
企画者 COM_COURSE(代表:久保田荻須智広)
企画名 「その姿の探し方」
久保田荻須智広の実家で発見された、洋画家・荻須高徳の署名入りの一枚の絵画の調査を起点に、美術史家の吉村真とともに、断片的かつフィクショナルな歴史と記憶の空間化を試みる。
Part 2|2025年1月11日(土)~2月9日(日)
企画者 滝戸ドリタ
企画名 「Efficiency of Mutualism(仮)」
生物発電によって、エネルギーを植物へ還す円環の相利共生を表現する。本来あるべき循環の姿と共に、人間の道具としての電気と自然との関わりを再考する機会を提示する。
企画者 KANTO(代表:佐藤浩一)
企画名 「水の博物館(仮)」
多摩地域の水環境の変遷と、環境と人間の相互作用についてのフィールド・ワークやリサーチから発展させた映像作品や資料展示をとおして、生活圏内におけるエコロジカルな諸問題を思考する。
会期中、特定の日時に上演します。鑑賞には事前予約と入場料が必要です。
実施日程や入場料金、予約方法等の詳細は、後日TOKASのウェブサイトおよびチラシにて発表します。
Part 2| 2025年1月21日(火)-1月26日(日)※会場使用期間
企画者 中川麻央
企画名 「Magnetic Contradictions」
時代の流れや社会の枠組みによって変容する身体。インスタレーションとパフォーマンスを通じ、展示空間や建物をも媒体に変化していく身体の実現象を空間に立ち上がらせ、身体とその概念の認識と拡張を試みる。
Part 2|2025年2月4日(火)-2月9日(日)※会場使用期間
企画者 現代サーカス集団RUTeN(代表:吉田亜希)
企画名 「砂上の楼閣 -Re.creation-」
日常にありふれた素材を現代サーカスに取り入れ、想像力や記憶へのアプローチを試みる。自動化が進みアンバランスさを感じる現代の物理的障害に対して、サーカス特有の重力と向き合って出来た身体と空間やオブジェクトとの関係性で生まれる相互作用を駆使したバランスに変換していく。
会期中、特定の日時に開催します。入場無料。
Part 1|2024年12月17日(火)~12月22日(日)
企画者 そこからなにがみえる(遠藤幹大、草野なつか、玄 宇民)
企画名 「二画面上映会(仮)」
上映形式のより自由な可能性と観客との新たなコミュニケーションを求めるコレクティブによる、2画面作品に限定した上映会やイベントを実施する。
公募企画に加え、TOKAS企画によるプログラムを開催します。入場無料。
Part 1|2024年11月23日(土・祝)~2024年12月8日(日)
企画者 柄澤健介
企画名 「柄澤健介個展(仮)」
チェーンソーで彫り込んだ木材と、パラフィンワックスを組み合わせた彫刻を中心に発表を行う柄澤健介。登山の経験をもとに制作された山河のように、自身の身体を尺度にした作品群により、モチーフ自体の悠久の時間と、素材の持つ耐久性を併せ持つことで、「現代」を捉えるだけにとどまらない、時流を超えた芸術作品の可能性を探求する。
募集期間 | 2024年2月28日(水)~3月30日(土) |
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応募総数 | 279企画 |
審査員 | 岸本佳子(BUoY 芸術監督) 小林晴夫(blanClass ディレクター) 畠中 実 (NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 主任学芸員) 近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター) |
岸本佳子(BUoY 芸術監督)
改めて、公募で集まった数多の企画を、限られた枠という「現実」に収めるために少数に選択するという行為の不可能性を強く感じた審査会だった。複数の審査員がいることでかなりの時間をかけて多角的に議論し検討するそのプロセスはとても豊かなものだったが、応募者と共有し得るのはそのプロセスのほんの一部であり、最終的に主たる情報として提供されるのは採択されたのか否かという「結論」の部分であるというのは少し残念な気がしている。言うまでもないことながら採択の論理はあくまでも相対的なものであり、まだ見ぬ企画を事前に評価するという不可能な営為を敢えて引き受けたその先に、そのまだ見ぬ企画がOPEN SITEという場を通して具現化するのを心から楽しみに待つと同時に、今回は止むにやまれぬ事情により採択には至らなかったまだ見ぬ企画もまた別の場を通して結実するであろう可能性にも期待したいと切に思う。
小林晴夫(blanClassディレクター)
OPEN SITEの特徴は何と言っても企画書を審査するところ。企画書にも印象があって、そこから色々と想像を巡らせるのだが、面接になると、また違ったパースペクティブが加わり、最後に実際の展示や上演などで、想像を超えてくるのか、裏切られるのか?という流れのゲームみたいなところがある。審査員としては、なるべく馬鹿正直にこの流れの中に身を任せてきたつもりだが、やはり毎年、一喜一憂するところもあり、このゲームを征する表現とはどういうものなのかを考えてきた。今年は、そんなOPEN SITEのゲームの本質を理解しているような、よく練られた企画が特に多かった気がする。最終的に選ばれたものは、企画書のための企画ではなく、それぞれの表現が抱える問題にちゃんと向き合っていて、外側にも開いている。さらにすでに出来上がっている作品というより、TOKASでの発表が何かしらのチャレンジになるものが残ったように思う。
畠中 実 (NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 主任学芸員)
この公募企画「OPEN SITE」がすでに9回を数えるということに驚きを覚えるとともに、すでにタイトルからは消えてしまったEXPERIMENTAL*ということの意味、しかし、それがこの公募における中心であり続けていることをあらためて考えている。展示、上演、対話、そして、美術、音楽、演劇、身体表現、ワークショップといった、発表形態や表現手法などのさまざまな要素が、たんにアーティストによる展覧会にとどまらず、同時代性を強く持ち、それといかに対峙しているかということによって、その企画が際立っていることが重要だ。
応募企画は、例外的であることが自覚されているかのように、そうした意識が強く感じられた。それゆえ、それぞれの企画は秀逸なものが少なくなく、審査は困難を極めた。結果は熟考の末のものではあるが、規定枠にこぼれてしまっただけとも言える。
アートであることにとどまらず、いかに現実社会との関係性を豊かに考えさせてくれるのか、採択企画が、TOKASの他の公募企画との差異を垣間見せてくれると期待している。
*2006年からトーキョーワンダーサイト(現TOKAS)で実施していた「Tokyo Experimental Festival」と「展覧会企画公募」を2016年に統合し、「OPEN SITE」とした。
近藤由紀(トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクター)
今回最終選考に残った企画は、評価も期待値も拮抗しているように感じられました。そのため採択するにあたり、審査員としてOPEN SITEの趣旨である「実験的である」ことの意味、そしてその企画をTOKAS本郷で実現する意義を改めて自分に問うてみました。メディアやアプローチの方法により、「実験的であること」はさまざまな仕方で発表形態に表れてきます。そこで、その企画が、企画者のアーティストとして、キュレーターとして、研究者としての軌跡の中で、どのような意味を持つのか、そして企画者がそのことにどのくらい自覚的なのかということを考えました。加えて、それをTOKAS本郷で実施することの意義をひとつの基準として議論に臨みました。とはいえ、それぞれの審査員がそれぞれの視点と基準から下した評価は、確かにどれも納得できるものであり、最後まで意見が分かれました。そうした議論を経て選ばれた8組の企画の実現が、私たちの予想を良い意味で超えてくることを期待しています。