更新日:2025.3.26
| 参加プログラム | 二都市間交流事業プログラム(派遣) |
|---|---|
| 活動拠点 | 福島 |
| 滞在都市/滞在先 | モントリオール(ケベック)/センター・クラーク |
| 滞在期間 | 2025年4月 - 2025年7月 |
私の滞在の目的は、多文化社会であるカナダにおいて、人々の多様性を観察することです。カナダは、世界各地からの移民が共存し、多様な文化や価値観が交差する環境であり、これは同質性の高い日本とは異なります。17世紀に到来したヨーロッパの入植者と先住民族との関係は、今なお複雑に変化し続けています。先住民のアラニス・オボムサウィンは、映画を通じてこの歴史と向き合い、対話を続けてきました。その活動は私にとって特に興味深いです。この滞在を通じ、多様な人々の視点を学び、人の普遍性について考えていきたいと思います。
社会的に均質な日本と多様性に富んだカナダの文化の違いを踏まえ、「人の普遍性」というテーマでリサーチを行った。プロジェクトでは、参加者に「肌色」をイメージに絵の具を混色してもらい瓶に集め、その色を絵画に用いた。この過程で多様な人々と対話し、私はその視点を色と共に受け取った。これまでは自己の視点だけで成り立った絵画を「他者との関係性を織り込む媒体」として再解釈し、この場所の多様性の在り方を観察した。

プロジェクト「ABC」
2025年 モントリオール

プロジェクト「ABC」
2025年 モントリオール
写真:Alexis Bernard
社会的に均質な構造を持つ日本とは対照的なモントリオールの多文化社会に身を置いたことで、私は多様な背景を持つ人々と出会い、日本人としての自分自身のルーツを深く再考する機会を得た。「普遍性」という概念は長らく私の制作の中心にあり、それが「万物の調和」という日本の伝統的な思想に根ざしていることに気づいた。しかし、この思想が歴史の中で「同質性」や「均質性」へと変化し、日本社会の基盤となってきた一方で、多様性を前提とするカナダのような国では、こうした価値観が「差異の排除」として受け取られかねないということに気づかされた。この気づきによって、同質性に依拠した「普通」や「共感」といった日本文化に根ざした価値観が、他文化と関わる際に文化構造上のズレを生まれていることを課題と捉え、自らの視点をいかに再考できるかという問いを持つようになった。
プロジェクト「ABC」では、参加者に「肌色」をテーマに絵の具を混ぜてもらい、そのプロセスを通じて多様な文化的ルーツや視点についてお互いに対話を重ねた。こうした対話の中で多様な視点を受け取ると同時に、自分自身も他者から見れば異なる背景を持つ「他者」であるという認識が強まった。「自分は誰か」「なぜそう考えるのか」という自己への問いと言語化が、ようやく異なる背景を持つ人々との対話の出発点となった。
このプロセスから得た重要な気づきの一つは、自分の視点が一方向に偏りすぎると、それが他者を排除する暴力性を帯びうる、ということだった。特に絵画という表現において、自分の主観だけに基づいて四角いフレーム内に切り抜かれたイメージは、それ以外のものを無意識のうちに排除する構造を持ちうる、という見方を持つようになった。このリサーチとプロジェクトを経て、私は絵画を「他者との関係性を織り込む媒体」として再定義するに至った。参加者たちから受け取った色と視点によって描かれた絵画は、「自分に何が見えているか」ではなく、「自分に何が見えていないか」という逆説的な問いをもたらし、私の制作への姿勢を根本から変えることとなった。
このような視点は、絵画という枠を超えて、世界の捉え方そのものにも影響している。見えているもの以上に見えていないものがあるという、という認識のもと、他者との対話を通してその「差異」と向き合いながら、私はこのプロジェクトを今後もさまざまな土地で続けていきたいと考えている。

プロジェクト「ABC」
2025年 モントリオール
写真:Alexis Bernard

プロジェクト「ABC」
2025年 モントリオール
写真:Alexis Bernard

アーティストトーク
写真:Alexis Bernard

アーティストトーク
写真:Alexis Bernard