ACT(Artists Contemporary TOKAS)Vol. 8

人は古来より、自然信仰としての祭礼や、五穀豊穣を願うための土偶などの造形物、自然観や信仰を反映した装飾模様などをとおして、人と土地の結びつきを表現してきました。これらの表象には、自然が恵みを与え、そして時には猛威をふるいながら、その場所に住む人の身体や精神のありようを形成してきたことが反映されています。現代においては、都市部はスクラップアンドビルドを繰り返し、地方では郊外化が進むことで画一的な風景が広がるなど、地域の様相は絶えず変化し、固有の姿は揺らぎつつありますが、それでも人は空気のにおいや風の肌ざわり、足元の感触に、その地に在るという確かな感覚を覚えます。それは私たちが生を営む地そのものに潜在的に愛着をもち、精神的なつながりを携えているからではないでしょうか。
このような考えを起点として、本展では「人と地のつながり」をテーマに、3名のアーティストが人と土や植物、自然現象との関係といった、それぞれ異なる視点から「地」について探究します。
赤羽史亮は粘菌や微生物など、さまざまな生き物がうごめく地中世界を絵画に描いています。農業を営む家庭に生まれ、幼い頃から土に触れる機会の多かった赤羽は、地に「着いて」いる(触れている)自身の内面世界と地中世界がいつしか同調し、土の中あるいは自らの内側に潜るようにイメージを表すようになりました。 久木田茜は植物を解体・再構成した様式としての装飾に惹かれ、陶器やアクリル、金属などによって造形作品を制作しています。地域における自然観や信仰を反映し、建築や工芸をとおして生活に「付いて」(根付いて)いる装飾のかたちを作品化し、人と自然の結びつきについて探っています。
山田沙奈恵は災害とそれに対処する人々の姿を、映像作品に表現しています。火山の噴火や地震は大地のエネルギーが表出したひとつの自然現象ですが、そこに人が「着いて」(住み着いて)、生活が脅かされることで、「災害」と呼ばれます。山田は人の精神的・身体的な営みと切り離して捉えることのできないその事象を、作品制作によって多角的な視点から捉えようとしています。
本展はこれらの作家の実践をとおして、この「地」とそこに「ついて(着いて・付いて)」いる私たちが分かちがたく結びついていることを改めて認識し、その関係について再考する試みです。
*「ACT(Artists Contemporary TOKAS)」は、トーキョーアーツアンドスペースのプログラム参加経験者を含め、今注目すべき活動を行う作家を紹介する企画展です。
| タイトル | ACT(Artists Contemporary TOKAS)Vol. 8「地について」 |
|---|---|
| 会期 | 2026年2月28日(土)- 2026年3月22日(日) |
| 時間 | 11:00-19:00(入場は閉館30分前まで) |
| 休館日 | 月曜日 |
| 会場 | トーキョーアーツアンドスペース本郷 |
| 入場料 | 無料 |
| アーティスト | 赤羽史亮、久木田茜、山田沙奈恵 |
| 主催 | トーキョーアーツアンドスペース(公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館) |
| 協力 | CAVE-AYUMI GALLERY |

《cell/skin/hole》2023
木材、スチールプレート、 野営用テント、ハトメ、番線、コットン、 麻袋、麻紐、ボンド、
ジェルメディウム、アクリル、砂、麻繊維、蜜蝋、綿水糸、サイザル、カラビナ
Photo: ITAMI Go Courtesy of CAVE-AYUMI GALLERY
©2025 AKAHANE Fumiaki
赤羽史亮は土の中の世界に惹かれ、きのこや粘菌、昆虫たちがうごめく世界のイメージと、それに共鳴する自身の内的な世界を絵画によって表現しています。
制作について「自らの内側に潜っていく感覚」と形容する赤羽の絵画では、特定のイメージをもたず、動物とも植物ともとれる有機的なかたちが表出されます。地中世界は赤羽にとって既存の価値観や権力などにとらわれない自由な場所であり、オルタナティブな可能性を探求し、創造性をどこまでも広げていくことができます。その表現はキャンバスの枠にとどまらず、近年は木や布、砂など、さまざまな素材を組み合わせた立体的な構造物へと展開しています。
本展では、新作を含む大型の絵画や立体作品を構成したインスタレーションを立ち上げます。それは菌類の支配する地中世界であるとともに赤羽の精神的な内面、身体の内側であり、未知の世界に鑑賞者が入り込み、ともに溶け合うような体験を創出します。
[プロフィール]
1984 年長野県生まれ。長野県を拠点に活動。2008年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。
「Oコレクションによる空想美術館- magical museum tour」 第6室 (2008)参加。

《いのちの紋》2021
陶、写真ネガ、木材
Photo: MIYAMOTO Kazuyuki
久木田茜は建築や工芸等にあしらわれた装飾に関心をもち、造形作品を制作しています。植物を解体・再構成して様式化した装飾は、その土地における人々の自然観、また信仰などを反映しており、人と自然の関係がかたちとして表れたものだといえます。久木田は装飾の要素をもとの文脈から抜き出し、陶、金属、アクリルなど多様な素材を用いて作品に構成することで、新たな視点からその姿を見る機会を与えます。
近年は「生成する装飾」をテーマとし、装飾における植物の反復模様を、かたちそれ自体が生命をもって自発的に「生成」していると捉え、そのエネルギーを作品に再現しようと試みています。
本展では、仏教美術における唐草模様について調査する中で出合い、興味をひかれた白根・新潟仏壇の装飾に着想を得たインスタレーションを新たに発表するほか、自然の秩序や、反復する形態の作用に言及した作品を展示します。展示は入口から奥に向かって次第に植物の根の方へと下りていくような構成となり、装飾のかたちや秩序から、より根源的で精神的な自然と人の関係について探究する空間を作り上げます。
[プロフィール]
1987年生まれ、愛知県育ち。千葉県を拠点に活動。2025年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程先端芸術表現専攻修了。
「TOKAS-Emerging 2021」、「2024年度国内若手クリエーター滞在プログラム」参加。

《ことのまえ》2022
HD ビデオ、サウンド
山田沙奈恵は土地や災害についてのリサーチやフィールドワークを行い、映像やインスタレーションをとおして人と自然環境の関係性について探究しています。
過去に山田が展示タイトルとして引用した「トポフィリア」とは、地理学者のイーフー・トゥアンによる、人がある土地に対してもつ愛着を指す造語ですが、災害の存在は住人に地形や環境について再認識させ、生活との結びつきの強さを浮かび上がらせます。災害の脅威を知りながら、それでもその場所に住む人々の内面には何が作用しているのでしょうか。山田は避難訓練やモデル実験、メディアの中でスペクタクルとして享受される場面など、日常の中で共有される災害のイメージを作品中で扱い、地にある私たち、あるいは私たちの中にある地という存在について再考を促します。
本展で山田は新作として、地震蟲やなまずの伝承を下敷きに、シングルチャンネル映像と複数のモニターに映し出される映像で構成したインスタレーションを展開します。時代や社会の構造を浮き彫りにし、人々の営みに影響を与えてきた災害という事象について、歴史や地形、人の精神的な側面から問いかけます。
助成:公益財団法人 小笠原敏晶記念財団
[プロフィール]
1987年群馬県生まれ。東京都を拠点に活動。2012年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。
「TOKAS-Emerging 2022」参加。