霞はじめてたなびく

ACT(Artists Contemporary TOKAS)

霞はじめてたなびく

ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1

開催情報

タイトルACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1 “霞はじめてたなびく”
会 期2019年2月23日(土) - 2019年3月24日(日)
休館日2/25, 3/4・11・18
時 間11:00 - 19:00
入場料無料
会 場
トーキョーアーツアンドスペース本郷
アーティスト
佐藤雅晴
西村 有
吉開菜央
主 催トーキョーアーツアンドスペース(公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館)
協 力イムラアートギャラリー、カヨコユウキ

トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)では、これまで公募展や企画展、海外派遣などを通じて、アーティストを段階的、継続的に支援し、またその活動を紹介するプログラムを実施してきました。 本年度より開始するシリーズ「ACT」(Artists Contemporary TOKAS)では、TOKASのプログラムに参加経験のあるアーティストを中心に、今注目すべき活動を行っているアーティストを企画展で紹介していきます。 初回となる本展覧会は、季節の移ろいや風景の移り変わりを身体で感覚的に感じ取り、その経験をとおして世界を捉えなおし、今まで見えていなかった風景を映像や絵画によって浮かび上がらせる作家、佐藤雅晴、西村有、吉開菜央の3名を紹介します。

展覧会について

古代中国で考え出された季節を表す方法の一つに七十二候があり、それぞれの名前は気象や動植物の変化を表す文章になっています。その暦は江戸時代に日本に取り入れられ、暦学者によって日本の風景や気候に合うように一部が書き換えられました。本展覧会が始まる2月下旬は、七十二候で「霞始靆」(かすみはじめてたなびく)と呼ばれています。

冷たく乾燥していた空気が徐々に潤み、遠くに見える景色が霞んで見えるようになります。湿気を帯びた空気が浮遊するちりなどと結合し、光に変化をもたらすからです。今回紹介する3名は、そのようなささやかな日常の変化を身体で敏感に感じとり、レイヤーを重ね、今まで見えていなかった風景を展示空間に浮かび上がらせます。

プロフィール

佐藤 雅晴 |SATO Masaharu

《福島尾行》シングルチャンネルビデオ、2018

実際の風景を映像に撮り、1コマ1コマをパソコン上でトレースし、アニメーションを制作しています。本展では福島の日常を描いた新作の映像インスタレーション《福島尾行》(2018年)を発表。佐藤が癌闘病中に制作した本作は、震災以降、旅で訪れた福島の風景を癌に侵されていく自身の身体と重ね合わせるように取り込み、一部をアニメーション化することで、日常と非日常の境界を曖昧にし、鑑賞者を映像の中の旅へと誘います。

制作協力:スガナミ楽器経堂店
鐘ヶ江織代(adNote)

西村 有 |NISHIMURA Yu  「TWS-Emerging 2013」参加

《factory》油彩、キャンバス、2018

実際にある風景を再現するのではなく、作家自身の日常的な気づきを重ねて「今」を描いています。どこかで見たことのあるような風景や人物、あるいは物語のワンシーンを思わせるような絵画は、空間に展示されることで隣り合うそれぞれの作品との間に、自然と物語が生まれるように構成されます。本展に際して、初春にまつわる新作ペインティングを出展する予定です。

吉開 菜央|YOSHIGAI Nao

『静坐社』映画、2017

身体的に得られた感覚を映像と音で表し、新たな映像表現を追求しています。2017年の映画『静坐社』は、大正期に流行した心身修養法のひとつである岡田式静坐法を展開していた京都の静坐社で、建物が取り壊される直前に制作。定められた呼吸と姿勢を保ち、腹に力を込めて静かに座る実践にリンクさせ、身体の動きに伴い生まれる音を丁寧に描き出し、普段気づかなかった風景を表出させました。展覧会では鑑賞者の身体と一体となるような映像インスタレーションを発表する予定です。

音響設計:堤田祐史
協力:栗田英彦、本間智希

アーティスト・ステートメント

佐藤雅晴

先日、ついにというか、とうとうというか癌治療の担当医から余命3ヶ月と宣告されました。癌とは8年ほどの付き合いになるので、健康なひとにくらべれば「死」が身近にあったとはいえ、いざ具体的な数字でカウントがはじまると当たり前のように少しでも生きていたいなどと考えてしまいます。今は、緩和ケアに移りましたが、その前には腫瘍の拡大を抑えるために抗がん剤治療を行いました。これがまた「毒には毒を」的な発想に基づいた治療方法なので、時間をかければかけるほど身体はボロボロになります。以前にも経験していたので、ボロボロになれば遠出はおろか外出もままならないことはわかりました。体の調子をうかがいながらちょっとした旅行もかねて行ける場所を思い浮かべたら、福島の風景が頭をよぎりました。震災以降、ちょくちょく訪れていた場所だったこともあり、海沿いを中心にカメラと三脚をもって出かけました。でも結局、数年をかけて取材してトレースして作品にするという計画は、数ヶ月で中断することになりました。今回は、死神に首根っこを掴まれてしまいましたが、もしかしたら奇跡的に逃げることができるかもしれません。その時は、ひきつづき福島におもむき、また続きを描こうと思います。
(2018.9.15 取手にて)

本展出展中の佐藤雅晴氏が、3月9日にご逝去されました。
謹んでお悔やみ申し上げますとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

西村有

ある場所に向かうための最短距離ではなくて、その対象に、どんな場所から、どんな行き方があるのか。
描きたいイメージがあっても、そこへ真っ直ぐに進んでいけるとは限らない。
その道すがら、意識は他の何かに伝播する。
面を塗る、線を引く、点を打つ。
自分が画面の中で行なっている基本の一つ一つは対象に向かいながらも、どこかでは他の何かになってもらいたいと思っている。
景色を映す網膜と、イメージを受け止めるキャンバスとの隔たりをどうしたら埋めていけるだろうか。
結局のところ、自分が抱くイメージは画面に何かをするための動機に過ぎない。
そこが入り口になって、犬なら犬、猫なら猫以上の何かがそこに無ければそれ以上前に進むことはできない。
蛇行しつつも未分化な要素を取り込んだ形は、もしまた犬や猫に返っていったとしても、今度は景色を通過した犬猫として現れる。
いや、そうした対象物と風景の間が取り払われて、絵画上での一つの見方が発生する。
どんなものを描いても、それぞれ個別の成り立ちがある。
こちらはそれを操作することも、予測することもできない。
全ては画面の中で一から始まることでもある。
絵を描く方は、イメージを結ぶことに全力を上げなければならないが、 それは果たして、その一枚の絵が持っている気質に対応しているのだろうか。
手を動かす以外では、私の制作はそういった判断の連続の中にある。
最初に画面に手を入れた瞬間からそれは始まっている。
手を入れる毎に、自分と絵との距離は広がって行く。
その広がりは対象への希求を促す。
画面の中に既にある形と、自分自身で作り上げなければならない形、 互いに打ち消し合いながら、絵は内と外の関係を築いていく。

吉開菜央

『静坐社』について

2016年、3月。ある重要な家が取り壊されるので、映像として記録に収めてほしいという依頼を受け、わたしは京都に向かった。その家は大正時代に流行した健康法「岡田式静坐法」を京都で広めていた歴史の深い場所なのだそうだ。(「岡田式静坐法」というのは、岡田虎二郎氏が発案した、呼吸を整えながら30分間静坐するというヨガや座禅に近い健康法だ。)わたしが静坐社に着いたころにはもう引っ越し作業真っただ中で、これまでこの家に住んできた4世代分の人々の物で溢れかえっていた。引っ越し作業を手伝う傍、わたしは家の記録を始めた。窓から入る陽の光、書物、手紙、写真、目につくものを手当たり次第に撮っていった。レコーダーを一日中、部屋の窓辺に置きっぱなしにして、家の周りを通り過ぎていった音も録音した。これらのもの全てが合わさって、古いひとつの家があった。ヨガも、座禅も、静坐も、その時間を過ごす上でどう呼吸するかが非常に重要になってくる。呼吸は、唯一人間が自分の意思でコントロールすることができる身体内部の働きだ。静かに座ることで、みえてくるもの、きこえてくるものはなんなのか。はたしてそれで人は救われるのか。静坐社に残っていた肉筆のメモをみて、わたしは改めて、古くから人が平穏な精神を求めて試行錯誤をしてきた歴史を、とても尊く感じた。
新作について
実は、もうひとつ、新作の制作を試みている。『静坐社』が止まっているものの時間感覚でつくられているのだとすれば、新作は、動いているものが主体の時間も交じってくる。例えば自転車に乗るとき、わたしは生身の肉体むき出しの状態で、いつもより早く、いろんなものとすれ違う。人や、景色、音、風。漕ぐのに疲れたら、自転車を止めてベンチにでも座って休んでみる。そうすると今度は、わたしは止まっているのに、周りの人が動いて、すれ違いにくる。すれ違う速さは違うけれど、それぞれ固有の時間感覚をもつ個体同士が、たまたま同じ場所に居合わせて、すれ違ってしまう、その瞬間に見える景色、聞こえてくる音の風景の希少さに気づいたとき、心底ありがたいと思った。目下、なんとかその気づきを作品に取り入れることはできないか試行錯誤している。

(2018.12.5)

関連イベント

参加作家によるトーク
タイトル霞はじめてたなびく ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 1
参加作家によるトーク
開催日時2月23日(土)16:30~18:00
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
出演西村有、吉開菜央
入場料無料(予約不要)

参加クリエーター

西村 有
佐藤雅晴
吉開菜央

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